第7回研究会 議事録(2013年4月20日)

 

鈴木 真里 氏 / 公益信託アジア・コミュニティ・トラスト チーフプログラムオフィサー、特定非営利活動法人アジア・コミュニティ・センター21 事務局長

「利用者に歓迎され、持続するマイクロファイナンスとは?」

 

ACTは公益信託という仕組みでアジアを支援

「アジア・コミュニティ・トラスト(ACT)」とは、アジアの発展途上国に対する草の根レベルでの援助を目的として、1979年に設立された、日本で最初の募金型公益信託。公益信託とは、寄付金を信託銀行や銀行に信託し、その運用益または元本を社会貢献に役立てる制度である。現在日本には、500以上の公益信託があり、そのほとんどが奨学金など、日本国内を対象としたものが多い。国際協力などに使われている公益信託は非常に少なく、その中でアジアに特化したのがACT。

公益信託にもいくつか型があるが、ACTのような募金型(コミュニティ型)公益信託は、広く一般の方から寄付を募り、社会貢献のための活動を行う仕組みを取っている。ACTの場合、1千万円以上であれば、寄付者が自分の名前を冠した特別基金をつくることができる。寄付者は、自分の希望する分野やプロジェクト、また希望する国に支援することも可能になる。ACC21がACTの事務局を担っている。

日本の多くの助成金は単年度であるが、ACTでは事業成果を確実にするため3年程度のスパンになるよう心掛けており、大和証券グループの津波復興基金のように10年間コミットしているところもある。事業報告は、特別基金の寄付者等にも提出している。 

公益信託ACTのHPより
公益信託ACTのHPより

 

出席者の関心

金融サービスの提供機関としてのマイクロファイナンス(以下MFと略)の持続性と貧困削減への貢献のバランスをどのようにとるのか、貧困層を取り巻く環境が急速に変化してきており、従来の毎週集会、債務返済の連帯責任性をとるグラミン型のMFがもはや有効ではないとの見方もあるが現実にはどうなのか、MFの現場での状況や課題を伺いたい、その他。

 

ACTのスリランカ・カンボジアでのマイクロファイナンス支援

ACTは、スリランカでは、①ウィルポタ女性貯蓄運動(WSE)による「津波の女性被害者の自立と開発プログラム」事業、②動員のための代替機関(Alternative Institute for Mobilization: AIM)による「貧困農民女性の住民組織化と農業関連マイクロファイナンス」事業カンボジアでは、③農民の生計開発団体(Farmer Livelihood Development: FLD)による「マイクロファイナンスを通じた農村地域の雇用創設」事業、④カンボジア農業開発研修センター(Cambodian Center for Study and Development in Agriculture: CEDAC)による「コンポン・チュナン州稲作農家の生計改善」事業の計4団体のMFの要素を含む事業を支援している。

 

ACTのMF支援事業の特徴(ポイント)

●段階的な戦略的ターゲットを掲げて、貧困層住民の自立を後押し

●貧困層住民の組織化が第一歩(女性グループ、貯蓄グループ等)。ただし、強制的な組織化ではなく、組織の利点に気付を与え、その後の持続性確保のためにも、住民のオーナーシップを尊重

●個人よりは集団での力(組織力)に重点(行政との交渉、提言、権利確保、市場開拓、ビジネスの共同運営、販売網確保、組合や共同店舗の設置等)

●融資に活用される回転基金確保のための貯蓄の重要性を啓発。不足分は助成金で支援

●技術指導も重視(簿記や会計処理、報告手法、組織化、リーダーシップ研修や革新的農業技術の普及等)

●家計、ビジネス、コミュニティのそれぞれの側面でのエンパワーを支援。

 

講師説明中特に興味深かった点

・一般的にMFは貧困層中位・下位層にはリーチできていない。

・補助金付きのMFは失敗例が多い(現地住民には「政府の補助金は返さなくてもよい」という感覚が染みついている)

・スリランカでは法人化により国の管理・規制が強まり住民組織の自由度に制約が発生することを嫌い、あえて任意を望むグループもある。

・スリランカのマイクロファイナンス事業で上部女性組織をつくり、23組織のうち16組織が加盟したが、独立心の強い漁村グループの中には加盟しなかったところもある。

・農村にいきなりNGOが入ると(また騙されると)警戒される。近隣の成功している村から、自ら実践している近隣村の住民が体験を話しに来ると信頼して話を聞いてくれる。身近な成功事例が導入の一番のインセンティブになる。

・妻がMFに参加すると夫が快く思わないケースが多い。→初めは夫も会合に参加するが、次第に興味を失っていき、妻にまかせることが多い。

 

質疑応答

(質問)ACTが支援している4機関は利用者への貸し出しの際、回転基金の維持のため利息をとると承知しているが金利と延滞率如何。

(講師)AIMで1%(注:6か月後に返済完了)、WSEで1~1.5%である。延滞は基本的に発生していない。

(コメント)MFの平均的な金利は28%である。この数字は、一般の日本人から極めて高い金利に映るかもしれないが、少額の融資の場合、コストがかかりそれでも決して高くないといえる。1-2%の金利では、人件費等のコストを賄い組織が維持できるのかが懸念される。

(講師)確かに持続性が問題ではあるが、自分たちのイニシアティブで住民組織を立ち上げ、オーナーシップがあること、通常のMFは都市部の住民に提供される傾向にあり、農村部の人々には届きにくいこと、住民の貯蓄を注入した回転基金を融資に活用するシステムであること、農村部の住民間に相互の信頼性があること等が持続性を支えていると認識している。

(コメント)MFは小規模なわりに手間がかかり取引コストが高めになると承知しているが、ACTの支援するMF事業は、AIMで示されているように月に1回の集会で、資金管理もそれぞれのメンバーに任される等通常の取引コストよりは低めで運営できる可能性があると認識。

(講師)債務については、現在、多くのNGOのMFプログラムでは、グループを組織化しても、他のメンバーのために債務を肩代わりすることは歓迎されないため、グループ制をとっていても債務の連帯責任は負わないことにしていることが多い。融資を受ける者には債務履行にかかる契約を交わし、土地・建物などの資産を担保にとることもある。

(コメント)貧困層の場合、担保をとろうにも、十分な担保価値を有する資産を有していない場合も多いと思われる。また、債務不履行の場合も、たとえば、牛銀行で提供された牛が資産である場合、それを引きはがすことは生活の手段を奪うことになり実際には容易でない。

 

(質問)多くの場合なぜ女性を対象にするのか

(講師)生計の手段を得るという観点からは、男女とも支援の対象となる。現にスリランカのケース(AIM)では、組織化の段階では男性が会合に参加し、主導権を握りたがる傾向にあった。しかし、集会や組織化を進める過程で、家庭経済の問題から地域の問題まで細かな話し合いや相談をする集団活動ではをいとわない女性の方が参加しやすいといえる。

 

(質問)カンボジアの教育制度

(講師)6-3-3制の義務教育だが、初等教育での就学率は6割程度。教員にきちんとした給与が支払われないことが課題。

 

(質問)ACTの助成選定のあり方如何。プロポーザル提出による競争選考になるのか。

(講師)事業申請書提出により選考を行う。ただし、各団体にとって20-30枚の事業計画書作成は負担が大きいので、まず、2枚程度のコンセプト・ペーパーを提出してもらい、書類選考をとおったところで事業計画案を提出してもらい、選定を行う。選定にあたっては、単に内容がすぐれているという面に限らず、ほかのドナーからはなかなか支援が期待できないものの、ACTからみて革新性があり、その他とくに後押しすべきと認識される案件を採択することとしている。1回の公募での応募件数は、スリランカ(津波関連)で60件、カンボジアで70件近く。

 

(質問)日本には国際NGOが400~500団体くらいあると聞いているが、日本のNGOが果たすべき役割についてどうみるか。

(講師)自分の意見としては、日本のNGOは中間支援に徹するべきであると考える。NGOの役割というのは、住民のニーズを正確に吸い上げて、必要とされているリソースを、必要としている人々に行きわたされる仲介役であるべき。日本のNGOが現場に行けば、そこでは現地のNGOが活動している。現場ではオーナーシップを発揮するための住民組織も誕生しているため、現地NGOと住民組織の連携が不可欠であり、将来的には現地のNGOもやがて中間支援が中心となり、主体は住民組織となっていくべき。ACTは、アジア諸国が力をつけてきたことを踏まえ、さまざまなアジア諸国のパートナーとの間でリソースを補完しあう形で協働を進めていきたい。

 

講師:鈴木真里氏

アジア現地NGOへの資金助成を行う日本初の募金型公益信託アジア・コミュニティ・トラスト(ACT)チーフ・プログラム・オフィサー。企業調査会社、(特活)国際協力NGOセンター(JANIC)を経て、2001年よりACT事務局を担当し、アジア各国で事業発掘調査、モニタリング、評価を行う。2005年4月よりアジア・コミュニティ・センター21(ACC21)事務局長、理事。マイクロファイナンス普及、自然農業普及、カンボジア・コミュニティ幼稚園プロジェクトなどを担当。

 

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