第4回研究会 議事録(2011年12月3日)

 

斉藤 隆祐 氏 / AMP MUSIC共同創設者

「アフリカのインディーズ音楽の配信を通じた貧困削減」

 

主なやりとり

(1)動機

●ケニアのスラムでソーラーパネル設備の普及のビジネスを当初もくろんでいたが、収益性が事業リスクに見合わないと判断した。発想の転換で、「ないものを提供する」から「すでにスラムの人たちが持っているもので商売できないか」と考えた。販路を持たない現地のミュージシャンの音楽を世界のプラットフォームにのせる橋渡しを行い、彼らがそれぞれの能力に応じた対価を得ることを支援することができると考えた。

 

(2)AMPの意味

●二重の意味がある。ひとつは、音楽のライブ等に使用するアンプリファイヤー(アンプ)。もうひとつは、アフリカン・ミュージック・パワーで、アフリカの音楽が持つパワーをAmplify(増幅)するという想いを込めている。

 

(3)活動の現状

●22人のミュージシャンの曲を編集して3枚のCDを制作、iTune Storeでネット上販売している。現在の中間マージンの中での運営に必要な利益を確保することは難しい部分も、事業継続性と収益の配分との最適なバランスの実現を目指している。既存の音楽業界とは異なる事業モデルを模索している。

 

(4)日本音楽著作権協会(JASRAC)に登録して著作権の集中管理を受けている方が、ネット販売以外での販売を行おうとするときのもれがなくなるのでは。

●現状では実利より販促上の弊害が大きいと判断し、JASRACとは著作権信託契約を締結していない。

 

(5)広報について

●ラジオJ-WAVEに出演した。また、NHKラジオの収録も行った。ギャラよりは伝播力のあるメディアに取り上げていただく機会を優先している。共同創設者梅本由香里さんが朝日新聞で紹介された。イベントでも浸透を図っていく。

 

(6)1か月でどれくらい制作され、そのうちどれくらいが販売網にのるのか。

●ケニアのスラムであるKoch(コッチ)では、70-80人のミュージシャンの曲を販売網に載せていく考え。制作の頻度はひとによって異なる。低所得者では、2-3か月分の給与をつぎ込んで、1曲つくるひともいれば、スタジオを経営していて、月に10曲制作しようと思えばできるひともいる。Koch(コッチ)では、2人のソロアルバム制作計画がある。

 

(7)音楽の販売促進にはクオリティ管理が重要だと思われるが、取捨選択しているのか。

●スクリーニングはしない。プロの目利きはできない。できる限り、ネットに載せていく。いい曲とこれはどうかと思う曲があるのも事実だが、パッケージで販売するということもありうる。コンピレーション(編集)したCD3枚で24曲収録されている。現在は、まだテスト市場化の段階。まず2枚CDを出したが、その反応をみて、次の1枚に進んだところ。2枚のうちどちらが売れるか消費者の反応、売上を観察してきた。

 

(8)販売実績

●手売り200-300。ディジタルの場合は、累積で75日後に結果が出てくる。曲単位での購入が可能。

 

(9)ミュージシャンへの報酬

●最初の送金は、2千円-3千円/月。月収の半分程度。6千円で1曲作れる。最底辺のひとでも、2ヶ月に一曲は作れる計算になる。(それでは生活費はでないということになるがとの質問に対し)ほぼ全てのミュージシャンが別の仕事で稼いだ生活費を切り崩して創作活動しているので、売上がその分創作に回せるようになることを期待している。

 

(10)ミュージシャンの発掘方法

●先方からやってくることが望ましいが、現実には、こちらから出かけている。

 

(11)販路はないがクオリティはある?

●音楽は嗜好性が高く、そこまでクオリティを追求しなくても、販路さえ作ればそれを望む人にリーチできる。

 

(12)消費者からのフィードバック

●1)単純な売り上げ数(定量)、2)言葉での定性的なもの、があると思料。前者に関しては、売上は音楽業界では、最初に制作費に投資するのが普通であるが我々はそれをしない。その理由は、コミュニティは援助慣れしているのでそれと一線を画するためであり、最初にお金を渡さず、完全印税方式にしている。後者に関しては、Facebookでコミュニケーションを促進している。

 

(13)ミュージシャンも売れ始めると手元にとどめるのは容易でないと思うが、どのように囲い込むのか。

●立ち位置としてはインディーズレーベル。これをきっかけにメジャーレーベルとの契約のきっかけになるのなら、それは一つの成功とみなす。特にケニア国内での成功については我々の提供できる価値ではいまのところ無いので、逆輸入で国内で有名になるのであればそれも良しとする。

 

(14)女性ミュージシャンの数

●22人中2人。

 

(15)Koch(コッチ)以外での展開の可能性

●現地のパートナー発掘が必要。そのうえで、消費者があきないようアフリカのケニア以外の地域でも活動領域を拡大していく考え。

 

(16)梅本さんとの役割分担および出会い

●これまでは、おもに自分が海外の現場対応、梅本さんが国内という分担であったが、このたび海外にも出かけてもらった。出会いは、日本総研槌屋研究員が立ち上げたBOPイノベーションラボで知り合った。

 

(17)(斉藤氏よりの質問)マイクロパトロン(注:アーティストに対するパトロンのように、金銭的な見返りに限らずお気に入りの人を養うようなイメージ)の可能性をどうみるか。

●(Kivaジャパン山下氏)「個別に歌を作ってくれる権利の買い取り」というアイデアであれば面白い。

 

【コメント】

① たとえばバリ音楽でも、その場にいるからこそ聞きたいという気になるが、日本に戻ればどれほどでもない。日本人とアフリカの音楽には距離感がある。そのため、特に関心を有している100-200人なりの鑑賞会あるいはコミュニティを作って、そこでアーティストを呼んで演奏会をやり、関心を持っている人に集まってもらうというアイデアはどうか。

 

②オーダーメードで100人のファンのために製品をつくるということもありえる。また、6千円で1枚CDができるとすれば、たとえば誕生日の贈り物として1万円はらって自分だけのものを制作するということも考えられる。1万円の半額をミュージシャンに渡し、5千円が会社に入るという手もありうる。

 

③JICAがBOPビジネスの取り組みのF/S調査を補助している。経産省もBOPビジネス連絡会を立ち上げている。立ち上げ段階では、公的資金の支援を受けるという考え方があるのではないか。

 

【議事録】アフリカのインディーズ音楽の配信を通じた貧困削減の試み.pdf
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