第1回研究会 議事録(2011年7月30日)

 

中原知里氏 / 地域維新グループ・田舎会社東京支店代表 

「市民復興トラストによる被災民起業支援」

 

(1)地域維新グループとは

●日本で5百店舗をネットワークする「第3世界ショップ」、1千人の起業家を育ててきた「WWB(Women's World Banking)ジャパン」、規格外農産物の販売等で地域の通商の活性化に努めている「田舎会社」、総額6億円以上の無担保融資を実施してきた「市民バンク」など、志を同じくしながら、フェアトレード、起業支援、コミュニティトレード、ソーシャルファイナンスなど多角的なアプローチで社会の問題解決を実践する個人や法人からなるアソシエーション。

 

(2)維新グループの震災被災者支援

●以前から、各団体と関係を有する人々が東北にも在住。震災直後からコンタクトを試みる。懇意にしていた人々の現場のニーズを迅速にくみ取り(たとえば、農産物育成や被災民自身の暖をとるための「ココナッツ炭団」等)、3月20日から直接被災地に定期便を運行(合計9回)。その中で、現地が必要なぎりぎりのニーズを把握。

 

(3)市民復興トラストについて

●震災発生直後から間もない3月後半の時点で、仕事づくりを進める必要性に着目し、具体的な復興トラストを企画し、順次実施に移していった。復興トラストは、「仕事場を再建」、「リサイクル編み物で生きがい作り」を含め合計11。

 

(イ)仕事場を再建プロジェクト

概要:「できあがったら農水産加工品を顧客(応援者)に送付」というコンセプトで、維新グループが立ち上げた「市民復興トラスト事務局」が1口5万円の購入予約を募り、被災者である起業家(物産館を運営してきた庭静子さん。WWBを従来からつながりを有する)に物産加工所手配のための資金200万円を提供。起業家は、商品ができ次第、相当額の商品を出来上がった時点で送付する。資金の流れとしては、「トラスト事務局」がグループ内の「市民バンク」から金を借り、その資金で「トラスト事務局」が庭さんに予約購入代金の前払いをし、「購入者」から購入代金を回収して「市民バンク」に返済する、という流れ。(下図参照)

 

(ロ)リサイクルと編み物で生きがい作りプロジェクト

概要:原発事故の避難民が避難先で、生きがいを見いだせるようリサイクルの毛糸材料の提供を呼び掛けるとともに、1口3万円で毛糸で編みあげた衣料製品の予約購入を募集。編み手をグループで集め、避難所を兼ねる東山温泉が場所を提供し、現場で編み方の指導も行い、孤独を防ぎつつ仕事の場を提供する。

 

(4)質疑(以下①~③は「仕事場を再建」プロジェクト関連)

①この企画が3月後半の時点という極めて早い段階で開始された理由

●田舎会社を通じたこれまでの似通った方式による販売方法を適用したため、早く企画を組むことができた。

 

② 5万円という金額は、ひとによっては、やや割高感があるのではないか。1万円ぐらいでうすくひろく集める方が抵抗感が小さいのではないか。

●やや強気にあたってみようということで開始したら、5日間で200万円が集まった。事業家の庭さんが、グループのひとたちと以前から関係があったということが大きな要素のひとつ。企画によっては、1万円の資金を集めるという場合もあり、金額は事業内容との関連で決定している。

 

③ 顧客と起業家の間での事業運営者の役割如何

●事業運営者である市民復興トラスト事務局は、市民バンクの資金で、起業家である庭さんに200万円を前払いする。ほぼ同時に、市民から一口5万円の購入予約を募り、予約の先払いで契約を交わす。契約上、市民復興トラスト事務局が起業家に代わって顧客に対する責任を有する。起業家は生産が可能になった時点で順次商品を顧客に送付する(イスラム金融のムラバハと同様な仕組みであるとの説明あり。起業家は、送金相当額を差し引いた金額の商品を送付する)。

 

④ 事業運営者の管理費について(イスラム金融の場合は、間に入る銀行が相当額の手数料をとる)

●市民トラストにおいては手数料はとらないが、送料などの必要経費は市民トラストとして払われたお金でまかなっている。担当者の人件費は他の事業からの持ち出しになるが、他方、広報効果や新市場の開拓、新商品開発につながると考えている。維新グループ全体で年商10数億円の売上があり、開発された商品を第3世界ショップや田舎会社が販売することで回収していく。

 

⑤規模の拡大を目指すとしたら、手数料がはいらないと回していけないのではないか。10件や20件程度であれば、なんとか管理できるかもしれないが、100件とかになれば、中原さんだけでは対応しきれないと思われる。

●トラスト1万件で5万人の雇用創出を示しているが、このすべてを自分たちのグループで対処できるとは考えていない。同様の動きが広まることを期待している。

 

⑥ 途上国のマイクロファイナンスでは、担保をとらないかわりに毎週1回の5人組集会で、隣人たちから村八分にされたくないという心理的圧力を利用して返済を確保する仕組みをとっている。規模を広げるのであれば、それなりのメカニズムが必要ではないか(今のやり方では知り合いしか助けないということにならないか)

●借り手である起業家について、事務局が定期的(1週間毎)にメールマガジンで進捗状況を応援者に報告している。現状は、支援しようとする相手、支援したい対象を選択している。

 

⑦ (コメント)Kivaの場合も融資した資金に金利はつかない。それではKivaはどこから運営資金を得ているかといえば、企業からの寄付、貸し手からの寄付で賄われている。市民トラストは、日本のメディアでも紹介されており、企業からの寄付、支援を募るというアプローチもあると思われる。また、市民バンクは、全国NPOバンク連絡会には所属していないようであるが、NPOバンクを活用した起業支援がありうると思われる。

 

⑧ 起業家への融資に先立ち、起業家がサラ金等隠れた負債を負っているのではないかという調査はしないのか。

●非常にやんわりとした照会はするものの、対象は信頼でなりたっている方であり、立ち入った調査は行わない。

 

⑨ 市民トラストは何人で運営しているのか。意思決定はどうなっているのか。

●事務局は現在15人。意思決定は、各トラストの責任者とボードメンバーが行っている。

 

⑩市民トラスト11個の内容と現状、募集期間如何。

●11のトラストのうち、5つは閉め切っているが、それ以外は募集中。募集期間は1-2ヶ月。うちわをリサイクルし、学生のデザインを付加して再提供するとか、被災地に必要な食料の確保のためのトラスト等が存在。

 

⑪(コメント)岩手で聞いた話であるが、ベトナム製のタオルを用いてがんばるゾウの製造を阪神大震災でやって経験を踏まえ、手ぬぐいで同じようなことをやってはどうかという話が出たが、がんばるゾウの販売価格が500円で工賃は何百円にもならないため、現地のひとからそれであれば農作業をやっていた方がよいという意見も出されたそうで、手仕事であればなんでもよいということでもなさそうである。

 

⑫(コメント)トラストと銘打っているが、金銭を提供する者を受益者とし、田舎会社(市民復興トラスト事務局)を受託者とする信託とする場合、受託者の責任は信託法100条により限定的であり、顧客がリスクを負うのが普通である。

(参考)本件は商品の売買契約(市民トラスト事務局が商品のまとめ買いし、顧客に販売するもの)であり、金融商品取引ではない。

 

中原知里さんのご厚意で、プレゼンテーション資料を別添のとおり、公開します。
なお、本資料の著作権は、中原さんと維新グループに属します。
※無断転載は不可ですので、ご留意願います。
【プレゼン資料】市民復興トラストによる被災地支援.pdf
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【議事録】市民復興トラストによる被災民起業支援.pdf
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