第6回研究会 議事録(2012年12月8日)

 

長野 英章 氏 / ダイマーズラボ株式会社 代表取締役

「共創型の社会貢献プラットフォームの構築に向けて」

 

長野氏説明のポイント

(1)大阪難波の出身。高校時代にカナダ・豪州にバスケット留学。バスケット留学を通じてチャリティへの関心が高まる。自分の誕生日に合わせて、100人をレストランに招き、当該レストランから料金総額の半額にあたる10万円の寄付を獲得したのが、初めてのファンドレイジング。さらに、Unite for Sightという目の不自由な人々支援する団体に、サングラス500個と10万円を寄付。

 

(2)その後、GROUPONという会社(クーポンの共同使用のサービス提供)勤務、外資系IT企業Wimdu勤務を経て、2011年11月ダイマーズラボ(株)を立ち上げ、causewalker(のちにRoad+に改称)プロジェクトをスタートさせた。iphone利用者がアプリ上に示された特定のチャリティイベントに参加をし、利用者が1km歩くたびに2円スポンサー企業が対象団体に寄付するアプリを開発した。

立ち上げ以降8か月間で3万6千人がアプリをダウンロード、うち10%が継続的に参加しており、約60万円の寄付を実現した。

 

(3)世界の1/7が貧困層であり、自分はたまたま幸運であったとの認識がある。オンライン・ビジネスを通じて、企業と一般消費者が交わり、両者の距離は縮まってきたが、社会貢献というひとつの社会の中ではまだひろがりは感じられない。自分は世界の貧困削減に貢献したいと希望している。

 

(4)企業の広告予算は年間5兆円に達し、何かを活性化させるぜいたくなリソースと認識される。広告宣伝費の1%でも寄付につなげることができれば、ファンドレイジングの構造の変革をもたらすものと期待される。震災支援との関連でみても、NPOの後方支援の必要性が認識されており、誰にとっても日常的な「歩く」ことを、企業にスポンサーになってもらい寄付化することで、社会貢献に活用することができると考えた。

 

(5)SNSを通じて、共感を拡散し、更なる共感を生み出すことができるようになった。企業の広告宣伝費は、より効果的にオンライン商品や企業広告への関心を引き付けることに向けられる。これまでの広告は、「伝える」ことが中心であったが、企業からの一方的な発信は消費者に信頼されない面があった。ところが、自分の知っている人に「伝えてもらう」ことで商品情報や企業広告の信ぴょう性が高まり、企業にとっての宣伝効果を高めることができる。Road+は、利用者が参加する企画を通じて、利用者は提携企業も応援することになる。たとえば、スポーツメーカーのマラソンに参加するので、応援してほしいというメッセージに共感した利用者が企画に参加し応援すれば、提携企業側は、自分たちの活動を利用者主体で発信させることが可能になる。

 

(6)facebookのCPC(注:Cost Per Click:ネット広告の掲載料金の単位のひとつで、クリック1回あたりの料金。ウェブ・ページのバナー広告などがクリックされ、サイトに訪問者が現れるとCPC1回分の料金が発生する)は70~100円といわれているが、 Road+は、平均9.21円と割安になっている。

 

(7)企業にとって、ブランドプロモーション広告のメリットは計りにくいが、コーズ・マーケティング(注:企業の社会問題や環境問題への積極的な取り組みを対外的にアピールすることで、顧客の関心を喚起し、利益の獲得を目指すマーケティング手法)は企業の利益に直接結びつくことが企業にとってのインセンティブになる。

 

(8)今までに、2つの企業、アパレル企業のナノユニバースと教育業務に携わるグロービスが寄付を行い、支援団体を選んでいる。ナノユニバースは、街の掃除キャンペーンを実施し、グロービスは、AFTER SCHOOLキャンペーンを実施した。

 

寄付が成立する仕組み

長野氏の説明を踏まえて、Road+の関係当事者と寄付が成立する仕組みを理解すると次のとおり。

 

▶アプリの利用者/支援者

支援先(イベント)を選ぶ ⇒ 歩く ⇒ 距離に応じて寄付に貢献できる ⇒ 寄付したことが企業広告と一緒にSNSに投稿され友人に拡散する

 

▶提携企業

イベントを企画 ⇒ 利用者の歩く距離に応じて対象団体に寄付 ⇒自社サイトへの訪問者数が増える ⇒ 商品の販売促進で利益をうる可能性が高まる

 

▶支援(チャリティ)団体

企業から寄付を受ける ⇒ 社会貢献活動に活用する

 

▶運営者(ダイマーズラボ(株))

企業への提携の働きかけ ⇒ 対象団体の提示(企業が自ら選定する場合もある)⇒ 社会的貢献のための寄付を実現/別途、事業の持続性確保のための広告収入を得る

 

質疑応答

(1)ダイマーズラボ(株)しての収入如何。

●寄付に付随する広告収入があり、また、ギフトとして提供されるクーポンの使用手数料が考えられる。

 

(2)今後の事業拡大の方策

●現在のRoad+プロジェクトは歩くとクーポンがもらえる「ギフトイベント」と、歩くと寄付ができる「チャリティイベント」の2種類だが、クーポンを使った売り上げの一部が寄付される方式を検討中。クーポンの利用では、大手流通企業との連携が有望。企業に対しては、コーズ・マーケティングによる利益をアピールする形で企業に提携を働きかけていきたい。

 

(3)従来型の寄付は、個人の感動を寄付に結びつけてきているが、Road+は楽しみながら寄付を実現する方式と受け止めた。日本のNGOはどこも財政難に苦しんでおり、ACC21でも、アジア留学生の東北ボランティア派遣を実施しているが、このような活動を支援する可能性はあるのか。

●Road+は企業がスポンサーで、提携企業の企画をユーザーが支援する方式であり、NGOが設定する事業を支援する方式にはなっていない。個人からの支援も行われていない。(これに対し、企業でも味の素のような会社は社会貢献活動に積極的であり、途上国でも実績があり、連携の可能性があるのではないかとコメントしたところ)食品については、table for two と連携してアフリカで自社がスポンサーになった給食支援事業がある。小売業者よりは、販売チャネルを持っていないメーカー、とりわけ、消費財や食品メーカーの方がより広告宣伝費の予算が大きいので連携の可能性はあると考えている。

 

(4)CPCの計算方法

●CPCはウェブへのアクセスを獲得するためのコスト。あらかじめ決められた予算上限を、アクセス数で割り算するのではなく、企業広告の投稿数に応じて課金される広告料金の総額を、実際のアクセス数で割り込んだもの。ただし、各企業で、上限を決めているため、爆発的に利用者数が多くなると機能しなくなる(参加者が貯めたポイントを消化できるイベントが足りなくなる)可能性はある。

 

(5)Road+アプリの開発

●自前のエンジニアがいるわけではないので、アプリの開発は外注した(現在は自社に技術者を確保し、開発スピードと柔軟性をもって事業展開している)。まだ、投入資金を回収できているわけではないが、そのための開発資金は用意できていた。

 

(6)歩くことに関心のある団塊以上の世代にはSNSに親しみのない人の方が多いため、こういうアプリの存在を知る術がない。1日に歩く歩数の目標をおいている人も多い世代なので、歩くだけで寄付ができるという仕組みがあることを知れば参加したいと思う人も多いはず。このプロジェクトの仕組みをSNS利用者でない中高年世代に知らせる努力はしていかないのか。

● 現在のところ、iphoneの利用者に限られる。万歩計のタニタと横並びで紹介されたことはある。(これに関連して、出席者より、この事業では企業がスポンサーとなるため、商品のターゲット層を絞り込んでいると思われ、高齢者は対象から外れていることも想定され、年代別のよりきめ細かいアプローチが必要になるのではないかとの補足があった)

 

(7)高齢者の志をターゲットにファンドレイジングを試みる動きが目立ってきている。長野氏は、高齢者を対象としたファンドレイジングでどのような活動が有効と考えるか。

●休眠口座の活用や、外国に行ったときに余った外国のコインを募金してもらうようなことは考えうる。

 

(8)提携企業とはどのようにして関係をもったのか。

●いままでスポンサーになった2社のうち、1社には知り合いがいたが、もう一社は純粋な営業活動としてアプローチした。

 

(9)提携企業には、長野氏から支援団体を提示するのか。

●先方で、すでに支援対象を考えているところもあるが、そうでない場合は、自分たちから選択肢を提示する。

 

(10)企業を取り巻く状況も厳しくなっており、経費の削減にあたっては、まっさきに広告宣伝費が削られるのではないか。

●オンライン・ビジネスを行う企業にとって、広告宣伝費はまさに営業活動と一体であり、そこを切り込むことはほとんど考えられない。

 

(11)直接寄付との違いについて

●直接寄付は、労力が多い割には、身銭が少ない。自分は、もうすこし日常的に貢献できる方法として、クリック募金方式を考えた。

(出席者より、Kivaの途上国の起業家支援も、支援者は、25ドルで支援ができ、1年以内に100%近い回収率で返済がなされるため、実質的に個人の負担感がほとんどない形の支援であり、このような支援が伸びているとの認識を表明)

 

(12)コーズ・マーケティングの効果

●(長野氏の質問に対し)ボルビックのようにキャンペーンをはってコーズ・マーケティング活動を行ったケースは報告されているが、社会的貢献がどれくらい企業の売り上げに貢献したのかを現実に計ることは容易でない。

 

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