第5回研究会 議事録(2012年2月11日)

 

大澤 亮 氏 / Piece to Peace代表

「ファッション商品や新規事業を通じた社会変革」

 

プレゼンテーションの主要点

(1)現在の活動までの歩み

商社に入社してタンザニアでODA事業にも関わった。その後、慶応大学経営管理研究科で学び、同時に会社立ち上げ、売却、ベンチャー支援会社を経て、2007年に土屋鞄製造所に入社。日本のモノづくりを世界に広め、上場を試みたがその後断念した。2009年に株式会社Peace to Peaceを設立し、「地球貢献」をコンセプトとして、エシカル(倫理的)なファッションブランドの普及に取り組んでいる。ファッション業界は、常に在庫の問題を抱え、セールや社内セールでも在庫がはけないと最後には廃棄することになる。Peace to Peaceを設立し、同僚の米国人ダニエルを通じて、米国と日本で何がはやっているのか、アイテムをどのように組み合わせるのかを研究することとなった。

 

(2)OmniPeaceとの出会い

以上の経緯を経て、NYでミレニアム・プロミスという米国の経済学者ジェフリー・サックスらが立ち上げたNPOの会合に参加し、その際OmniPeaceという団体の社長と話をして、意気投合した。OmniPeaceのロゴは、下がアフリカ大陸で上がピース(平和)で世界的に著名なセレブたちが賛同し、アイテム(カットソー全般、バッグ、帽子等)を身につけたセレブの画像の使用を許して販売促進に貢献し、OmniPeaceは、ミレニアム・プロミス等を通じて、アフリカを対象に寄付を行い、年1校の割合で小学校を建設している(これまで5校建設)。Peace to Peaceは、OmniPeaceとのライセンス契約により、アイテムの日本での販売を行っている。

 

(3)FEEDプロジェクトとの関係

FEEDプロジェクトは、FEEDバッグの販売を通じて世界の飢餓に苦しむ子供たちに食糧を届ける社会貢献活動で、ブッシュ元大統領の姪であるローレンブッシュが立ち上げたもの。日本では、Peace to PeaceがFEEDバックの総代理店になっている。

 

(4)LIVGRN(リブグリーン)との関係

LIVGRNは、2007年にロサンジェルスで、本当にエコな素材を使ったスタイリッシュなファッションアイテムを作りたいとの思いで立ち上げられた団体。ハリウッド女優等のセレブにも支持され、ネットや紙面での画像の活用が可能になっている。LIVGRN利益の10%を環境系NPOであるGlobal Greenに寄付している。Peace to Peaceは、LIVGRNとライセンス契約を結び、アイテムの日本での販売を行っている。

 

(5)Peace to Peaceが考える地球貢献

以下のとおり「地球貢献=チャリティー」ではない、多種多様な貢献がありうる。

① 啓蒙活動

② 実際の寄付やフェアトレード商品の扱い

③ 客に満足いただくこと

④ 民間企業として利益をあげること(注:税金を納めることや事業拡大による地球貢献活動の実施)

⑤ 若者の育成(インターン制度)

⑥ 世界での貢献

 

(6)Peace to Peaceが考えるエシカル・ファッションとは

利益目的や顧客満足といった視点とは別に、ファッションを通して地球・社会に対して積極的に責任あるアクションをとること→ 突き詰めれば買う人、使う人の意識次第(例:綿製品は水を大量に使う。Tシャツ1枚に数百Lの水が必要)

 

(7)Peace to Peaceのミッション

限界は認識しながらも、わくわくするような地球貢献活動を継続して行い、個人や法人を巻き込み、インパクトを与え続けること

 

(8)収益の流れと寄付の流れ

寄付の流れは大きく分けて2つ。加えて自社企画による寄付。

① OmniPeaceやLIVGRNに支払うロイヤリティーがWFPやミレニアム・プロミスといったNPOへの寄付となる

② FEEDの場合は、輸入代金の一部がWFPへの寄付となる

③ このほかPeace to Peaceのセレクトショップやデパート等との連携企画で得た利益の一部を直接NPOに提供する

 

(9)Peace to Peaceの売り上げ

収益源は、ネット販売・卸売上、委託売上、ライセンス収入、コラボ収入の4つ。鍵となるのがリピート。リピート率があげられるような施策を継続して行う

 

(10)Peace to Peaceが抱えるリスクとは

①過剰在庫を抱える、②寄付先トラブル、③セレクトショップが感じる「飽き」による取引量の変化、④インターン(学生主導のプロジェクトも多い)、⑤ブランドの劣化

 

(11)Peace to Peaceのリスクとリターンに対する考え方

オンラインとオフラインの事業がある。現在は、卸、委託販売といったオフライン事業が大半であるが、オンラインでの直販を収益の柱にもっていくとの期待あり。

 

(12)アフリカの子供たちへの制服の支援

UNITED ARROWSはOmniPeace のコンセプトに賛同し、OmniPeace ウィークを2011年5月に開催。期間中の販売収益の一部(購入者ひとりあたり100円)をNPO法人Kagenoを通じて寄付され、アフリカの子供たちに制服がプレゼントされる。UNITED ARROWS とOmniPeace の日本総代理店であるPeace to Peaceは、購入者ひとりあたり50円ずつを寄付する。販売促進には、アフリカ人アーティストのライブペインティングやOmniPeace大使の板井麻衣子氏らが参加し販売促進に貢献。NPO法人Kagenoは、ルワンダの村に1-5歳の孤児が学べる学校を設立。園児のために年間700の制服を提供(ひとり2セット)するために、UNITED ARROWSとPeace to Peaceでそれぞれ5100ドルずつ、合計10200ドル寄付することが目標。

 

(13)新規事業shAIRについて

教えたい人と教わりたい人のニーズを踏まえてふれあいの場を設けること。生徒と教師をオンラインで登録、受講できるように結びつけ、スタジオや喫茶店や事務所や本やレストランといった場所を自由に選択して、学びの場を設ける。ひとり1コース当たり3千円(平均)を想定。他業者と比較して、shAIRは、①学べる、②気軽に(安価に)参加可能、③ひとと話せる、④地球貢献(ポイントから寄付先を選ぶ)が特徴。米国では、先行例あり。

 

質疑応答

(1)利益と寄付の基準

●寄付はプロモーションの一環。寄付を行うことによってベッカム等セレブの画像の使用が可能になる。広告費は不要である。寄付額と売上額・利益との間には明確な基準はないことが多い。

 

(2)ネットで売るにはネットの認知度がカギになる。客単価、リピート率、客層如何。

●客単価は一万円程度。5~7千円のTシャツを1―2枚、帽子と組み合わせる場合もある。リピート率の数字はない。客層は、大衆層を対象にすれば、資金力のある上の層が離れていくおそれがある。ただし、大衆層とのよいコラボは考えられる。

 

(3)年間売上高、純益、寄付、NPOのガバナンス、10年後のビジョン

●純益はとんとん(給料を出せる状況)。寄付は、ロイヤリティーを通じて寄付につなげるものと直接の寄付の2パターンがある。直接寄付は昨年70万円(伊藤理事より、使いようによっては、70万円が現地では700万円の価値があるかもしれない。そのお金が活かされているのかどうか、使い方が問題であるとのコメントあり)。一番よい方法は、支援の専門家にお任せすること。NPOからは報告書はもらっている。10年後のビジョンではなく、いま直面する課題をひとつずつ取り組んでいけば展望が開けてくると信じている。

 

(4)shAIR事業の収益モデルについて

●ネット上ではなく、現実の学ぶ場所を提供できればと考えている。生徒が講師に対して支払う受講料の20-25%の手数料をいただくことを考えている。

 

(5)学びの場としてのshAIR事業について、全ての人(成人)に何等かのスキルがあり、時間的余裕もあるが、ネットの活用は限定的。ターゲットをどこにおくのか。

●企業とのタイアップ、たとえば、オイシックスのような会社と連携し、おいしい野菜の見分け方のような講義を行うことで裾野を広げることができる。

 

(6)東日本大震災支援

●Tシャツ4900円の販売から300円分をCivic Forceに寄付した。なお、震災直後はどうして被災地でなくアフリカなのかといった声もあったが、今は理解してもらっている。

 

(7)shAIRでは、学んでためたポイントで寄付するのか

●学びから寄付につながる場合も、つながらない場合もある。本人の意志が重要なので、無理やり寄付をする必要はない。

 

(8)社会貢献ブーム、Tシャツを買っておしまいか、何か気付きを期待しているのか

●大衆層を上に引き上げることを目指したい。継続は力であり、大衆層には何か気付いてほしい。

 

(9)スタッフの構成

●社員は2名。日本での事業は実質は自分一人。同僚の米国人がいるほか、デザイン、ディレクター、営業等外注している。ほかにインターンを数人動員している。

 

(10)寄付型商品は、消費者に効果があるのか

●デパートやセレクトショップでは、ものがよければ売れるといえる。寄付の効果は正直よくわからない。そもそも社会貢献に「非常に熱心」という層は少なく、寄付につながるからというだけの理由で買うという人も少ない。あとで、結果として社会貢献型商品であることに気付いてもらえればよい。

 

(11)寄付型商品は寄付部分が価格に転嫁されるのか

●ライセンス契約上は売上の一部がロイヤリティーとなり、その一部が寄付に回される。UnitedARROWS等のセレクトショップは寄付型商品ということで通常のブランドより高めに買ってくれている(高めに負担してくれている)。

 

(12)バッグを作ったりデザインした現地の人たちに利益が還元されているのか。寄付が何に使われているか寄付者にも知らせるべきではないか

●現地の人々の給料は把握していない。正当に支払われているとは聞いているが、いくら支払っているのかは把握できていない。但し、寄付のレポートはとり寄せている。

 

(13)メディアの効果如何。

●媒体による。効果がなかったものもあるが、雑誌メンズクラブの1面に載り、電話が鳴り続いたケースもあり、知らぬ間に著名人が着た商品が雑誌に掲載され注文が殺到したこともある。

 

(14)(コメント)日本でも、shAIRに似た事業をすでに展開しているところがある。それは「渋谷大学」である。固定した場所をもたず、学びの場と交流の場を提供している。

 

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