第2回研究会 議事録(2011年10月1日)

 

吉山 昌 氏 /  認定NPO法人 難民支援協会 事務局次長、一般社団法人難民マイクロファイナンス(現:公益社団法人難民起業サポートファンド理事

「難民の起業・就労支援としてのマイクロファイナンス」

 

(1) 難民起業サポートファンドとは

① 事業体:公益社団法人(公益認定申請中)

② 事業内容:当面「経営支援」(注)を事業の核とし、「起業支援」のための融資は第二段階

(注)経営支援: マーケティング支援等(例:飲食店でのケータリング拡大支援)

③ 資金調達:融資においては、一般からの寄付金を原資とし、「出資」は募らない。

④ 貸付:貸付は、公益認定を獲得したのち、案件を絞り込んで、ニーズがあり、成功しそうな難民を融資対象に低利融資を実施する。

⑤ 融資後の対応:融資先の状況をモニタリングし、ビジネス成功のための経営支援を行う。

 

(2) 難民起業サポートファンド構想の動機

● 難民が「負担」ではなく、「人材として活躍できる存在」であることを知らしめ、生活の糧を得るよう日本国内での自立を支援すること。

●難民の中には、たくましい起業家精神を持っているものも多い反面、信用力や在留状況の不安定な外国人であることに起因する問題から通常の金融機関からの融資を受けにくい状況にあること。

●他方で、2009年から開始されたコミュニティ支援事業との関連で、小規模金融へのニーズが認識できたこと。

●MFの実績を積むことで、通常の金融機関から見ても信用性が増し、通常の融資を受ける途を開くことにもつながること。

 

(3)現状

●公益認可申請を行っており、1年以内の認可を期待。

●個人起業家へのMFサービス提供は未実施。ただし、公益認可前でも経営支援は可能。最近オープンしたビルマ料理の店(早稲田)で経営支援のトライアルを開始。

(事業実施に時間を要した理由)

① 東日本大震災で、準備活動の中心人物が東北支援に向い、人的な余裕がなくなったこと。

② MFサービスの実施メカニズム検討に時間がかかること。

 

質疑応答、コメント

(1)なぜ、公益社団法人の認定を目指すのか

●貸金業法上、貸金業としての金融庁への登録が不要で、金融庁の監督を受ける必要がないため。

 

(2)なぜ起業支援をしないのか。

●公益認定前に融資はできない(貸金業法との関係)ので、当面マーケッティングやケータリング等の経営支援を業務の中心に据える。先進国では、100万円や200万円では運転資金の一部を補てんするにとどまる。

 

(3)なぜ出資を募らないのか。

●出資を募る場合、貸金業法との関連で、出資者と新法人の間に任意組合を組み入れる必要がある。おそらくNPOバンクの例から融資の運営はできると思われるが、貸金業法の認定を2階(組合部分)にて取得する必要があり、そうすると事務コストが嵩むため。

●出資者に出資金を返済する場合には、多数の出資者を募る必要があり、手間とコストがかかる。融資は当面多くて10-20件程度であろうとみており、それくらいの数では、低利の融資では運営管理コストの捻出は容易ではない。ただし、出資であれば、協力したいという人は存在する。

●寄付金を原資にすれば、借り手の返済が滞った場合でも出資者への返済を考える必要がなく、運営上のリスクを抑えることができる。

 

(4)寄付の規模の拡大

●MFで寄付の新たな支援者を掘り起こすことができればよいが、パイが増えない中、協会とMFIの中で、寄付金を食い合うことは避けるべし。

 

(5)融資の顧客対象は、信頼でき、ビジネス経験を有する有望とみられる人物に限るとのことであるが、それから漏れた人はどうなるのか。

●事業規模からみて多数を対象にすることはできず、成功事例を増やすことが事業の維持の観点から重要。

 

(6)難民支援協会と新法人をなぜ分離させるのか

●新たな挑戦を行う新法人のリスクが難民支援協会本体に及ぶことを遮断するため。

 

(7)無担保融資の中で返済を確実にするための方策

●融資対象は、難民支援協会の支援を受けたことがあるような見知らぬ存在ではない難民たち。その中でも、有望な人々を絞り込む。融資した上で、経営支援等で事業の成功確率を上げ、また活動を密接にモニタリングすることでリスクを抑える。

 

(8)支援対象の業種

●レストラン、民芸品製造販売、中古車輸出の経験を有する難民がおり、資金ニーズもあるが、当面は、飲食業を想定。

 

(9)難民の出身国で多いのはどこか。

●ミャンマーやトルコのクルド人が多い。ミャンマーは体制側との関係があり、トルコはクルド人の存在を認めていない。

 

(10)各国のMF先行事例を調査したとのことだが、現地を訪問したのか

●韓国は訪問して調査。米国、英国は事例を承知しているものを通じて調査した。韓国、米国については貧困層や女性向けの起業支援で、英国は難民に対する起業支援のケースを調べた。

 

(11)難民を対象とすることで留意すべき点

●難民の問題をもっと知ってほしいと考える人々と、難民であることを知られたくないという人々がいる。後者は、出身国に家族や親族を残している場合、それらの人たちに悪影響が及ぶことを回避したいとの背景がある。

 

(コメント)

●ミュージック・セキュリティーズの震災支援融資は、それ自体は、事業者に運用利益をもたらさないにもかかわらず、メディアとの関係では、NHKや民放各社、さらには朝日新聞の社説にまでとりあげられ、大ブレークした。難民起業サポートファンドもNHKの「さきどり」等でとりあげられるよう広報的にアピールしてほしい。それが、資金調達の拡大につながると思われる。たとえば、クルド女性のアイデンティティをアピールするような編み物の製作・販売も魅力的である。

●KIVAやミュージック・セキュリティーズの例からも認識できるが、末端の支援者と末端の起業家がMF事業体を通して結ばれており、提供した資金がどのように活用され、役に立っているのか支援者から「見える」ことが成功のひとつの大きな要素になっていると思われる(寄付であっても、支援した起業家の動向をフォローできるような仕組みを考えたいとのこと)

 

当日のプレゼンテーション資料を、吉山氏のご厚意により公開いたします。本資料の著作権は、吉山氏と難民支援協会に属します。
※資料の無断転載は不可ですので、ご留意願います。
【プレゼン資料】難民の起業・就労支援としてのマイクロファイナンスの試み.pdf
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【議事録】難民の起業・就労支援としてのマイクロファイナンスの試み.pdf
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